The Millennium Wolves ミレニアム・ウルフ アルファの野望2 - 表紙

The Millennium Wolves ミレニアム・ウルフ アルファの野望2

Sapir Englard

計画を立てるのは好きだ。計画こそが俺を突き動かす。計画によって俺はここに立っているし、ひいては群れが機能するのだ。

だが、トイレで起こったシエナとの出来事は、計画でも何でもなかった。

彼女には時間をかけて歩み寄りたかった。彼女を知り、しっかりと惹きつけ、誘惑するつもりだった。

だが、あの夜の軽率な行動は、今となっては大して心配はしていない。俺たちは肉体関係を持ったことで、あらゆるものが深くなったからだ。

すると突然、頭の中でアラーム時計のようなものが鳴り響き、それはまるであの子に差し迫った危険を俺に知らせているようだった。

ダイニングホールに再び戻ったとき、俺は会場全体をくまなく見渡し、全ての男達に注意を払った。アラーム時計と言ったのは前言撤回だ。サイレンの方がふさわしいだろう。

こいつらを黙らせなければ。方法はただ1つしかない。

俺は自分の席にそそくさと戻ると、ジョシュとジョセリンには目もやらなかったが、2人は俺の気分を一瞬で察し、まだ一口も食べていなかった食事を下げた。

個々の挨拶の時間は手短に済ませ、相手の話をサラッと聞き流し、俺を口説こうとするやつにはキッパリと無視した。こいつらには俺に染みついたシエナの匂いが分からないのか?そしてどんな小さな危険信号にも目を光らせた。

あれ以降、シエナはまるで俺を疫病神かのように避けていた。他のやつだったら無礼だと思っただろうが、あんなことがあったのだから、彼女が距離を置こうとするのは無理もない。

だが彼女は、俺から離れれば離れるほど、自分が危険に迫っているということを知らない。

ゲストが皆帰り始めると、俺は少しホッとした。脅威は過ぎ去ろうとし、サイレンも静かになってきた。しかしまだ気は抜けなかった。俺の頭の中には、もう1つ払拭できない問題があったからだ。

すると、忘れることのできない匂いがフワッと漂い、俺は一気に惹きつけられた。

シエナだ。

彼女はショールを肩にかけ、出口に向かって足早に歩いていた。髪は片方に寄せられ、人狼の急所である首筋が露わになっていた。

その瞬間、俺は理性を一気に失ってしまった。

今しかない。

パートナーを守れ。

2秒後には俺は彼女のすぐ後ろにいた。耳元に寄りかかり、ささやく。「帰る前に、お前にプレゼントがある」

そして口を彼女の首元に近づけた。こうする他ない。彼女がアルファによって守られているということを示すことで、誰も手出しできなくなる。

「言ったはずよ、私は...」

最後まで言わせなかった。俺の本能は聞く耳を持たなかったからな。彼女の首と肩の間の柔らかなその1点に狙いを定め、俺は噛み付いた。

自分のものであると示し、

マーキングをつけ、

彼女を守るのだ。

シエナの唇からうめき声が漏れる。耳を澄ませばやっと聴こえるほどの声で、俺の耳には官能的に響いた。

彼女にマーキングしたのは正しい判断だと願いたいが、どうしても後悔する気にはなれなかった。

この首筋の印を見るたびに、俺の中の獣は不敵な笑みを浮かべ、肉体的な欲求が満たされていくのを感じた。

最愛のパートナーに印をつけることができ、俺はようやく安堵した。

「今シーズンは俺のものだ」と彼女にささやき、いっそうと独占欲が高まった。「他の男がお前に触れようものなら、そいつを殺す」

そう言い放ち、俺はその場を後にした。これであの子も、俺たちの関係を理解しただろうから、やっと一息つける。

彼女は俺だけのものだ。男に二言はない。

シエナ・マーサーは今、アルファに守られている。そして、どんな男も彼女に近づくことはできない。もちろん、引き裂かれたくなければの話だが。

***

本部にあるオフィスのソファで俺は目を覚ました。まだ体がだるい。昨晩、全員が帰った後にようやくオフィスに戻り、ビールを数杯飲んでからそのまま夜を明かした。

俺はよくオフィスで夜を明かす。そのため、バスルームとミニキッチンがついており、クローゼットには予備の服をしまってあった。

立場上、緊急を要する電話にすぐ対応しなければいけないため、結果としてオフィスで寝泊りするようになった。

だが、そんな生活ももう終わりにしなければ。今や自分のパートナーがいて、彼女に危険が及ばぬよう見守る必要があるからな。

もしも、当初の計画通りに物事を進めていたのだとしたら...とクヨクヨしてしまうが、過去を変えるとができない以上、俺が進むべき方向は1つしかなかった。

前へ進むしかない。

シャワーを浴び、歯を磨き、新しい服を着て、秘書に電話をかけた。「こちら本部、エミリアが承ります」聞き覚えのある声だ。

「俺だ」彼女はもう30年近く秘書長を務めているため、名乗らずとも俺が誰だかわかる。「シエナ・マーサー宛てに招待状を送ってほしい。大至急だ」

果たしてエミリアは、俺の依頼に驚くのだろうか。「了解しました、アルファ。内容はいかがされます?」

どうやら無関心ではいられないようだな。「今から言う通りに記してくれ。親愛なるシエナ・マーサー...」

***

ジョシュが何か重大な発表でもしようとオフィスを歩き回っているそばで、俺はボーッとしながら椅子にもたれかかっていた。

すると突然、俺は何かの、いや、誰かの存在を感じた。

あの子が近くにいる。

本能的にすぐに立ち上がり、彼女を探しに行くところだったが、今はその衝動を抑えねば。どうしても、こいつらとのミーティングに集中する必要があったのだ。

どうやら俺の問題に首を突っ込んできたやつらがいる。

ジョセリン、ネルソン、リースの3人は、ジョシュが落ち着きを取り戻そうとしているのを黙って見ていた。

だが、俺は我慢の限界だった。「ジョシュ、いい加減はっきり言ったらどうだ」

「エイデン」と、俺の机に寄りかかりながら重い口を開いた。「俺たちはお前を心配しているんだ。それだけじゃない。群れのもの達も勘付きはじめている」

今は聞くときだ。怒りが込み上げ、もう1人の俺を必死になだめた。こいつの言い分を最後まで聞くんだ。

「今となっては、噂やゴシップレベルの問題じゃないんだ」ジョシュは顔をしかめつつ続けた。

「群れのもの達が、お前のリーダーシップに疑問を抱き始めている。皆がアルファに絶対的な信頼性を置けなくなると、群れは機能しなくなる一方だ」

俺は席を立ち、わざと肩慣らしをした。ジョシュに誰がリーダーかをはっきりとさせるための行動だった。「ジョシュ、心配することはない。ジョシュ、心配することはない。もうパートナーは見つかった」

「自分でもまだよく知らない19歳の子をパートナーにしたってか?」ジョシュは怒りを露にした。

「そんなこと知った上で、心配せずにいられる訳ないだろ! お前が探すべきは自分のパートナーだ。まだ年端もいかない子と、遊び半分で付き合うなんて冗談じゃない」

よく言うぜ...アルファとセックスしたい女達と俺を引き合わせようとしたのは、どこのどいつなんだ。だが俺が言葉を発する前に、ジョセリンが口を挟んだ。

「その子のことはあんたもよく知らないんだから、彼女を批判するのはフェアじゃないわ」

ジョシュは唇を尖らせ、ジョセリンを睨みつけた。「あの子をとっちめようなんて思っちゃいないさ。俺はただ、自分たちの群れの未来よりも大切なものなんてないと言ってるだけだ」

「エイデンは何よりも群れを大切にしているさ」リースは俺を擁護した。「彼のリーダーシップに不満でもあるのか?」

いつものように、ジョセリンはすぐに皆をなだめた。

「ジョシュは、誰かの忠誠心を疑っているわけではないと思うわ。だけど、重要なポイントを指摘してる」彼女は優しい目で俺を見た。「エイデン、これからどうするの?」

こいつらが心配するのも無理はない。この数カ月間、俺は自分の世界に閉じこもり、彼らを遠ざけていた。

こいつらは何が起こっているのかわからず途方に暮れていた。俺だって本当のことを話すべきかどうか悩んだ。俺に何が起こったのか、そしてシエナのことも。だが、まだその時ではないという結論に至った。

ジョシュのこと俺は分かってる。このまま真実を誤魔化しつづけることはできない。だが、俺はまだすべてを打ち明ける準備ができていなかった。

「もう自分を塞ぎ込んだりはしない。約束する」 これが今、俺が伝えられる精一杯の言葉だった。

ジョシュは納得していないようだった。「俺はただ、お前にもっと正直でいて欲しんだ」「最近何があったんだ?」

彼をなだめようとしたそのとき、割れるような衝撃音とともに、オフィスのドアが開いた。

入り口に目をやると、青く輝く瞳をした赤毛の女性が、凶暴さと怒りをにじませながら俺を睨みつけていた。

他の皆は驚いた様子で見つめていたが、彼女は気づいていないというよりか、気にも留めていなかった。「あんたね...」彼女は唸りながら、歯をむき出し俺に挑んできやがった。

負けじと俺も心の中で唸り声を上げつつ、残忍な笑みを浮かべた。どうやらシエナ・マーサーは俺の招待状を受け、あまり喜んでいないようだ。

目を細めて席を立ち、机から出て彼女に面と向かって言った。

「いつ来るのかと楽しみにしていたよ」それは本当だった。だが、この強気な小娘は指図されるのが嫌いなはずだ。

あの招待状は彼女への挑戦状だった。「思ってたよりも早く来たな。嬉しいよ」唇が痺れるような感覚を感じつつ、そう続けた。

どうやらさらにも増してご機嫌を損ねたようで、その姿は美しくもあり、恐ろしくもあった。こんな状況では、できない男なら彼女をなだめるために何でもしようとするだろう。だが、俺は違う。

この修羅場を楽しむ余裕がある。彼女にはもっと怒って欲しかった。俺なんかには負けないという意思を示して欲しかった。

「嬉しい?」彼女は、その容姿にそぐわない唸り声を上げた。「そんな風に思ってたわけ?私があなたのためにここにいると?」

彼女はまだ俺を睨み続け、引き下がろうとする素振りも見せない。もし他の誰かだったら、こんなにも堂々とアルファに楯突くとどうなるか教えていただろう。

だが、彼女は俺のパートナーであり、俺自身が望んで自分のものにした女性だったため、俺はこの争いを楽しんでいた。

「他に何の目的があってここにいるんだ?」わざと平静を装いつつ尋ねた。「俺のオフィスで、この俺に向かって」

彼女は歯をむき出した。「あなたなんか怖くないと証明するためよ」

「怖くない?」俺はやんわりと唸り、一歩前に出て言った。「怖がった方が身のためだぞ」

平然を保とうとしているのは俺には分かった。そんな様子も可愛らしい。「あなたが群れのリーダーかもしれないけど、私はあなたのものじゃないわ」

お前はまだ、真実を知らないだけなんだ。

「お前の首にある印は、そうは思っていないようだ」

彼女は爪を剥き出し、俺に攻撃しようとした。

だが、俺は彼女の手首を捕らえ、すぐさま背後をとりつつ机の上に押さえつけた。腰で彼女の動きを制しつつ、片手で彼女の両腕を拘束し、もう片方は顎を押さえつけた。

全員の視線が背中に注がれているのを感じながら、これは2人だけの問題であることを悟った。

「出て行け」と俺が吠えると、全員1人残らず凄まじい速さで部屋を後にし、ドアを閉めた。

これでようやく2人きりになった。最愛のパートナーとオフィスの中。彼女の匂いが充満し、俺の匂いと絡み合う空間で。彼女の魅惑的な首筋。もう一度その美しい肌に...噛みつきたい。「己の欲望を抑えてみろ」

すると、彼女はうなり声を上げた。さらに強くシエナの体を押さえつけると、彼女の欲望が湧き上がるのを感じ、俺自身の欲望にも火をつけた。

気づくと俺の唇は、昨夜彼女につけた印に覆いかぶさろうとしていた。

「よく聞け小娘、おまえは俺のものだと言ったが、俺は本気だ」誰が何と言おうと知ったことではない。彼女は俺のパートナーだ。1度彼女に印をつけた以上、絶対に手放しはしない。シエナも素直になるべきだ。

「いい加減受け入れろ。お前の負けだ」と、しゃがれた声で彼女にささやいた。

彼女はまた唸り声を上げたが、さっきまでの攻撃性がほとんど感じられなくなっていた。欲望が彼女の理性を侵し始め、同時に俺の理性も奪われていく。

ほとんど朦朧とした意識のなか、俺は指で彼女の下唇のラインをなぞった。息遣いと震えがどんどん穏やかになっていく。

「それでいい」俺はそうささやくと、彼女の印に唇を重ねる。もう1度、深く、じっくりと俺に味わってほしいと言わんばかりのその印。

彼女は抵抗するのを止め、俺の腕に残ったのは、ただ快楽を求める1人の女性だった。今にでも彼女の全てを奪い去りたいという欲求を抑えるため、俺は1度ゆっくりと深呼吸をした。

「お前とこんな風に争いたくはない 」そう言って、彼女の柔らかい肌から唇を無理やり離した。「だが、もう2度と、他のやつらの前で俺に歯向かうな」

なぜなら、俺がここまでして自分の情欲、そして彼女への欲望を露にしているのに、彼女は俺が本気ではないと思っていたからだ。

今回は大目に見るつもりだが、次回また同じような場面で俺に歯向かった場合は、それ相応の対処をしなければならない。

「でも、2人っきりのときは歯向かってもいいのね?」と彼女はつぶやいた。

まともなやつなら、男であれ女であれ、俺に歯向かうなどという発想すら浮かばない。だが、シエナは他のやつらとは違うからな...。

背筋がゾクゾクするようなこの感覚。俺のペニスは激しく脈打ち、ズボンを突き破りそうになった。「ああ、楽しみにしてるぞ」「だからお前に決めたんだ」

嘘ではなかった。俺の気持ちに気づいた瞬間、彼女はきっと怒るだろうと思っていた。そして彼女は決して従順な子ではない。だから彼女が欲しかった。欲しくてたまらなかった。

一晩限りの遊び相手などとしてではない。彼女は俺のパートナーだ。彼女が誰のものでもない状態で歩き回っていると思うと、いてもたってもいられなくなった。

だが、ここまで彼女は知る必要はない。少なくともまだ。

「じゃあ、これはただの遊びなの?」俺の手を振りほどこうと素振りは見せるが、力は入っていない。

からかわずにいられなかった。「楽しくないのか?」俺はたまらず彼女の首筋に口付け、その柔らかくも滑らかな肌の味に身震いした。

しかし、官能的な味に夢中になるあまり、俺は彼女の興奮が薄れつつあることに気がつかなかった。「ううん、はっきり言って、楽しくなんかないわ」「放してくれるかしら」

俺には理解できなかった。この期に及んで、理性を持ち合わせているなど到底理解不能だ。

そこで、俺はもう1度抱き寄せ、彼女の背中の線を胸に感じながら、昨夜感じかけた彼女とのあの熱いセックスに埋もれたいと思った。

「ここで俺と一緒に住むか?」彼女を限界まで追い詰めていることは知っていた。

彼女の答えは実にシンプルだった。「嫌よ」

思わず笑ってしまった。これほどはっきりと俺にノーを突きつけたやつなんていないからだ。彼女を一瞬でも従順だと思った俺は、何とバカなんだろう。

「そうだと思ったよ」俺はニヤニヤしながらそう返した。「どうやらお前を捕まえるのが先のようだな」

ピクリとも笑いやしない。「少なくとも”誰かさんは”それが楽しんじゃない?」と皮肉混じりに彼女は答えた。「さあ、もう私から離れて。次はお願いなんてしないわよ」

俺も話が通じないバカではない。「お望み通り」と言って、ゆっくりとわざと時間をかけて彼女から離れた。もちろん、離れたくなかったからだ。

「遅かれ早かれ、あの興奮がまたお前を襲う。そしてお前は今まで無いほどに俺の体を求めるのさ」

彼女は俺をポンッと突き飛ばした。シエナは明らかに動揺していたし、我を失っていた。それなのに、背筋を強張らせて我を保とうとする姿は面白かった。

「私を捕まえようとするのは構わないわ、アルファ」「ただ、失敗してもがっかりしないでね」

彼女は俺に背を向け、堂々とドアに向かって歩いていく。

「シエナ...」 抑えきれない想いで、彼女を呼んだ。

シエナは振り返り、驚いた様子で俺を見た。そしてすぐに気づいた。俺が今まで、彼女のことを”お前”以外で呼んだことがなかったということに。しまった...なんてバカなことを。

「俺のことはエイデンと呼べ」こんなに恥ずかしい気持ちは味わったことが無い。しかも、彼女はこれをスッと受け入れるはずがない。

名前で呼んで欲しかったのは、群れのボスと部下という関係性から抜け出したかったからだ。これにより、俺の意図は明確になり、彼女をさらに苦しめた。

だが、俺が罪悪感を感じる前に、彼女は自分でうまく対処できることを証明してくれた。

唇に微かな笑みを浮かべ、「失せろこの野郎」とでも言うように、もう1度俺を睨みつけた上で、ドアから出て行った。

「勝負だな...」

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