「ペルセポネ」ベッド脇の照明の薄明かりの中、背の高い人物が影のように優雅に立ち上がった。「なぜ口紅が滲んでいる?」
彼だ…。最後に会ったのは、3年前。彼が私の心を粉々に砕いたあの夜。その彼が今、予告もなしに私の寝室にいる。私を待っていたのだ。
ダリウス。
彼は、ゆっくりと私に歩み寄る。片手で私の顔を掴むと、別の手で体を引き寄せた。
「他の男の匂いがするぞ、ペルセポネ」そう、低く唸った。
ダリウス・イヴァノヴィッチ・リコフ。パーティーで出会い、一瞬にして彼に魅了され、彼を見る目を離せなくなった18歳の人狼・ペニー。二人は運命の絆によって結ばれるのか?
ギデオン& Trapping Quincy に続くシリーズ、さらに深い世界へ飛び込もう。
対象年齢18歳以上
ペニー
ストロボライトの下、温かい手が腰に触れるのを感じる。振り返ると、ダークブラウンの瞳が私を見つめていた。少し酔ってはいても、が人狼であることはわかる。
鋭く射るような瞳。短く刈ったダークブラウンの髪。長身の体にはあちこちにタトゥーが入っている。
片耳にはピアス、唇にもリップピアスを嵌めている。
気がつくと、私は歯と舌で男のリップピアスを味わっていた。
どこか危険な香りがする男だった。でも私は酔い過ぎていて、正常な判断ができない。
リップピアスを歯で挟んで吸いつき、舌の上で転がす。温かい金属の感触がたまらない。の両手が私の全身を撫で回す。そのままキスをリードしようとするけれど、私は逆に彼を壁に押しつけ、こちらから激しくキスをした。
男は唇を重ねながら小さく笑い、私の体を引き寄せた。
身を離すと、リップピアスの男は消えていた。
代わりに目の前に立っていたのは、ダリウス。 彼はにやりと笑って、言う。
「あんな男、求めてもないんだろう、ペルセポネ」
私を正式な名前で呼ぶのはダリウスだけだ。
私は怒りにまかせて、彼を突き飛ばした。よろめきながらも、彼は微笑む。まばたきした次の瞬間、ダリウスは消えていた。
リップピアスの男が、困惑した様子で私を見ている。
「俺が何かしたか?」
男が尋ねる。私の態度が突然変わったことに戸惑っているのだ。 違う、聞きたいのはこの声じゃない。私は謝ることすらせず、急いでその場を去った。
キスのうまい男だった。でも、彼はダリウスじゃない。
(ああ、もう!何で?! また彼のことを考えてる)
どうして彼のことが頭から離れないのだろう。
このパーティーから出ないと。
***
ペッパースプレーを強く握りしめながら、私はふらつく足で家に向かった。
運転して帰るには、酔い過ぎていた。
背後でかすかな音がした。あわてて振り向くけれど、誰もいない。空っぽの通りに風が吹き抜けていく。
あと数時間もすれば、朝日が顔を出す。でも今は、妙に不吉に点滅する街灯の明かりだけが頼りだった。
ホラー映画は結構見てきたから、わかる。チカチカと点滅する明かりは何か良くないことが起こる前触れだ。
学生街に住んでいるとはいえ、用心してし過ぎることはな買った。女性にとっては、街のいたるところに危険が潜んでいるのだ。私のような人狼にとってもそれは同じだった。メスである私の能力には限りがある。ライカンでもないし。もしそうだったら、話は変わっていたんだろう。
もしかしたら、彼とも…ううん、もういい。彼のことは、もう名前すら思い出したくない。
浮かんできた思考を押しやり、別のことを考えようとする。 ここ1ヶ月、この地域では何件か強盗事件が発生していた。容疑者はいまだ捕まっていない。普段の私なら、恐れることもなかった。ライカンの王族だらけの家で暮らしているのだから。 何せ、皇太子まで同じ屋根の下にいるのだ。
でも、今夜は私一人だ。
家の玄関が見えてきて、少し気持ちが落ち着いた。でも、そこで、自分の寝室の明かりがついていることに気づく。窓の向こうには、人影。通りを見下ろしているように見える。
まばたきして目を開けると、人影は消えていた。
きっと、光のいたずらだろう。ちょっと飲み過ぎたのかもしれない。
『彼』のことを忘れたくて、つい深酒をしてしまう。
(でも…ちょっと待って。寝室の明かりは出かける前に消したはず)
ううん、ルームメイトの誰かが電気をつけたのかもしれない。
私は頭をぶるぶると振って、嫌な想像を頭から消そうとした。
(バカなこと考えないの、ペニー)
自分を安心させようとする。
もともと、記憶力がいい方じゃないんだから。
家の中は、かなり暗かった。階段の横の明かりはいつもつけてある。プールの照明もあるから、屋内が真っ暗になることはない。
とても静かだった。聞こえるのは、キッチンの冷蔵庫のブーンという稼働音とプールの濾過ポンプの音だけだ。
遠くで、海岸に打ち寄せる波の音が響いている。
カウボーイブーツを脱いで、タイルの床の上をできるだけ足音を立てないように歩く。
階段を上りながら、妙な違和感を感じた。
思考がはっきりしない。そろそろ飲みに行くのはやめて頭をクリアにしないと、おかしくなりそうだ。
嗅ぎ慣れた、うっとりするようなあの匂いが鼻腔を満たした。途端に、頭が真っ白になる。
「ペルセポネ」ベッド脇の照明の薄明かりの中、背の高い人物が影のように優雅に立ち上がった。「なぜ口紅が滲んでいる?」
彼だ…。
最後に会ったのは、3年前。
彼が私の心を粉々に砕いたあの夜。
その彼が今、予告もなしに私の寝室にいる。私を待っていたのだ。
ダリウス。
彼は、ゆっくりと私に歩み寄る。
片手で私の顔を掴むと、別の手で体を引き寄せた。
「他の男の匂いがするぞ、ペルセポネ」そう、低く唸った。
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